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骨折したことがありました。
理由は忘れてしまいましたが、大そう急いでいて自転車で細い道から道路に飛び出し、車にはねられてしまったのです。
ぴゅーっと飛ばされた私は、かかとから道路に落下。
すぐに救急車で運ばれ、緊急入院させられる羽目に。
かかとの骨は、見事に真っ二つ。
しばらくベッドに固定されることになってしまいました。
そんな退屈な入院生活で、たったひとつの楽しみ。
それは、彼が毎日その日の授業内容をノートに取って学校帰りに立ち寄ってくれることでした。
立ち寄るとは言っても、病院は学校から彼の家へ向かう逆方向。
病院の方向が帰リ道というクラスメイトもたくさんいましたが、彼がその面倒な役を自ら名乗り出てくれたのでした。
そして、そんな彼の優しさは、私にとって何ものにも代えがたいものでした。
本当に、私のことをすごく大切に思ってくれているのだと実感しました。
来てくれたら1~2時間を一緒に過ごしますが、彼が帰らなくてはいけない時間が来ると、たまらなく寂しくなります。
ある時、私は帰り際の彼に言いました。
「○○ちゃんにくっつきたい・・・・またいっぱい可愛がられたい」と。
そして、「○○ちゃんのが欲しいよ」と。
しかし、4人部屋だったそこではどうすることもできません。
周りのカーテンを閉めればキスぐらいは可能でしょうが、男同士ではそれも不自然です。
会話だって、この手の話になるとコソコソと耳元でささやき合うのがせいぜい
です。
「俺だってりょうを可愛がってやりたいよ・・・・でも・・・・今はしょうがないよ・・・・」
「うん・・・・わがまま言ってごめんね・・・・」
私の目から、涙がこぼれます。
彼はそれを指先ですくって、周りに目配せしながらササっと自分の口に運んですすります。
今考えれば、そんなことができる二人のそれは完全に愛情だったんだと思いま
す。
翌日。
いつものように学校帰りに立ち寄ってくれた彼。
そして、ニヤニヤしながら「今日はりょうにプレゼントがあるんだ」と言います。
「えっ!なになに!?早く見せて!」
彼がカバンの中をゴソゴソと探ります。
そしてそれを探り当てると、照れくさそうに手の中にギュっと握って、私の耳元でささやきます。
「りょうが欲しがってたやつ・・・・」
「・・・・え?なんなの?」
そっと手渡されたそれ。
それはよくお弁当に入っているような、調味料を入れるプラスチック製の小さ
なボトルでした。
その中身は・・・・
「あ・・・・○○ちゃんのだ!」
私は駆け出したいほど嬉しくて、大喜びしました。
「昨日りょうが寂しいって泣いたろ。俺のが欲しいって。でもそれは無理だからさ・・・・だからスゲー考えたんだ。今はこれで我慢してくれな」
「ありがと・・・・」
「今さっき、ここのトイレで瓶詰めにしたばっかだから、新鮮さは保障つきだぜ」
そんな冗談交じりに、照れ笑いしながら彼がウインクします。
「いい?」
「いいよ」
私は掛け布団で口元を隠すと、それを開けてチューチューと吸います。
忘れもしない彼の味が、口いっぱいに広がります。
「まだ少しあったかいね・・・・」
そう私が言うと、「だから新鮮だって言ったろ!」と彼。
ニッコリ笑って布団から手を出す私。
彼はその手を優しく握ってくれたのでした。